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東京地方裁判所 昭和63年(特わ)888号 判決 1988年10月05日

本店所在地

東京都渋谷区道玄坂一丁目一七番地二号

有限会社梅むら

(右代表取締役 野々貞市)

本籍

同所一丁目一七番地

住居

同所一丁目一七番二号

会社役員

野々貞市

明治四四年八月二二日生

右両名に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官井上經敏、渡辺登出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社梅むらを罰金二八〇〇万円に、被告人野々貞市を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人野々貞市に対し、この裁判確定の日から二年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社梅むら(以下、被告会社という。)は、東京都渋谷区道玄坂一丁目一七番二号に本店を置き、旅館の経営(昭和五九年二月廃業)及び不動産賃貸業等を目的とする資本金九〇〇万円の有限会社であり、被告人野々貞市(以下、被告人という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、土地譲渡収入の全部を除外して簿外で割引債券を取得するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五八年五月一日から同五九年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七億七五九六万五五四九円あった(別紙修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年六月二七日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三九一万四三六円で、これに対する法人税額が一二〇万八三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六三年押第八〇六号の一)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三億三五〇〇万五一〇〇円と右申告税額との差額三億三三七九万六八〇〇円(別紙脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  岸下龍太郎及び高本啓一の検察官に対する各供述調書

一  岡本恒夫の収税官吏に対する質問てん末書二通

一  収税官吏作成の領置てん末書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  土地譲渡収入調査書

2  土地譲渡原価調査書

3  土地譲渡費用調査書

4  固定資産除却損調査書

5  雑収入調査書

一  東京法務局渋谷出張所登記官作成の「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和六三年押第八〇六号の1)

(法令の適用)

一  罰条

被告会社につき法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

被告人につき法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき懲役刑選択

三  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、不動産賃貸業等を目的とする被告会社の代表取締役である被告人が、被告会社の法人税を免れようと企て、土地譲渡収入の全部を除外して簿外で無記名割引債券、株式等を購入するなどの方法により、昭和五八年五月一日から同五九年四月三〇日までの事業年度の法人税三億三三七九万六八〇〇円を免れたというものであって、脱税額が高額であり、脱税率も九九・六三パーセントと高率である点で犯情悪質である。また、その手段、方法は巧妙かつ大胆であること、被告人は、渋谷区納税貯蓄組合連合会理事や渋谷法人会理事に就任し、適正な申告、納税の履行につき他の組合員や会員を指導すべき立場にあったことを併せ考えると、被告人らの刑事責任は軽視できないといわなければならない。

しかしながら、被告人は、本件発覚前の昭和六〇年六月二七日、秘匿収入の大部分を占める土地譲渡収入八億円のうちの六億九〇〇〇万円について、同五九年五月一日から同六〇年四月三〇日までの事業年度の収入として申告していること、右八億円の秘匿は始めから意図されたものではなく、租税特別措置法六五条の七の課税の特例を受けようとしたものの、買換資産の具体的予定が立たなかったことからなされ、しかも、右特例を受ける期間の伸長についての正確な知識を欠いていたことにも一因があったこと、被告人は、本件発覚手持の書類を提出し、全面的に自白して捜査に協力していること、本件の対象となった年度の本税、附帯税を完納し、地方税についても納付したこと、被告人は本件犯行を深く反省し、税理士から具体的な税務処理の指導、監督を受ける体制を整え、今後は正しく申告納税する旨誓っていること、被告人はこれまで真面目に働き、前科前歴もないことなど、被告人らに有利な事情も認められ、これらに被告人の経歴、年齢、家庭の事情などをも総合勘案して、被告人に対しては、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断し、主文のとおり刑の量定をした次第である。

(求刑 被告人につき懲役一年、被告会社につき罰金三〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村俊夫)

別紙 修正損益計算書

有限会社 梅むら

自 昭和58年5月1日

至 昭和59年4月30日

<省略>

脱税額計算書

有限会社 梅むら

自 昭和58年5月1日

至 昭和59年4月30日

<省略>

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